インタビュー

「100点の人を作る」のではなく「0点の人をなくす」

投稿日:2016年1月19日 更新日:

三宅 琢さん

(株)Studio Gift Hands代表。

眼科医、産業医、東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野特任研究員。(株)アイム顧問(アインシュタイン放課後)。

眼科医としての最初の気づき

もともと4年前までは普通の眼科医をしていました。
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眼科医だけやっていたときに、治らない人、医療にによる視力の回復が難しい人へのケアは、「針灸」、「按摩」とか、「盲導犬」、「拡大鏡や白杖を持ちましょう」というようなすごく古典的な事ばかりでした。それらはもちろん生きていく上で大事なことですが、これだけテクノロジーが進んだ時代にまだこれなんだ・・っていう違和感は、すごく感じていました。

 

そんな時に、外来でたまたま患者さんにipadで病気の説明をしたら、「すごく見やすい」っていう反応をもらったんです。もしかして拡大できる云々だけではなくて、使い方次第では色々なことを変えられるんじゃないかなっていうのが、ipadに対する「最初の気づき」でしたね。

 

調べていくとipadとかiphoneには障害者向けの機能が最初からついています。ところがどういう風に使うかに関しては、ほとんどマニュアルがないんですよね。店員さんに聞いても「まあ、(そういった機能が)あるのは知ってるけど」っていう感じで・・。

 

このような情報障害の現状を変えるためには社会に働きかける必要があり、企業も巻き込んで何かおもしろいことができるんじゃないかなと思いました。

 

まず自分で視覚障害者の施設などをまわり、本当にipadが使えるのかを、試してもらいました。そこで施設の利用者の方から「すごく良い」「こんなに変わるんだ」っていう反応をもらって、治らない人に関しては「治す医療」以上に「治さなくても見えるようになる」ということ。極端な話、「見えなくても意味がわかる」「情報がとれる」が重要なんだ、と確信しました。

視覚障害とipad

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現在では、全国の眼科医の間でも、目の悪い人がiphone、ipadを使うのは当たり前・・・ということが、確実に広まっており、この4年の間に全国のアップルストアでは月に数回視覚障害者向けのセミナーをスタッフの方が行うまでに至りました。

 

アプリを作る人たちの中でも広がってきています。通信会社のソフトバンクが、当事者と支援者向けの全盲モードでのiPhoneの使い方のアプリを無料で配布し始めたりと少しずつ社会も変化してきていると思います。

東大「中邑研究室」との出会い

目に不自由を抱える人が最初に相談をする相手は眼科医です。だから、あえてこういったことを医者がやることが意味があると思い、『Studio Gift Hands』という会社を立ち上げ、4年前から活動を始めました。

 

最初は弱視の方たち、次に全盲の人たち・・・そうこうしているうちに、東大の「中邑研究室」に出会いました。
そこではテクノロジーを使って、いろんな身体障害とか発達障害の子供たちを「治す」のではなく、「障害があっても不便なく学べるようにしよう」という活動が行われていました。

 

その後中邑賢龍先生にお会いできる機会があり、ぜひ研究員にならないかと言う話をいただきました。

 

研究室に入ってみて、学習障害や読み書き障害の子供たちが、実に弱視とか全盲の人に近いITの使い方をしているということに、気が付きました。彼らは独特の文字だけ読めないとか、形だけわからないとか極端ですけど、それは結局、「目で見たものがきれいに脳に映らない」という部分は、視覚障害と同じです。
だから同じアプリがうまくいったりするんですね。

 

ふつうの眼科医っていうのは、学校の視力検査にひっかかった子供を「学習障害」っていう意識でまず診てないですから、これを眼科の領域に戻したらすごく大きな医療サイドへの「気づき」になるんじゃないかと思いましたね。

『新しいかたち』の教育

東大の中邑研究室、『ロケット』自体は異才発掘という形で、IQがすごく高いんだけど不登校になってしまった子供たちが通っています。個性がすごく偏っていて、エッジが出ているので、むしろもうそのまま生きていけるようにしてあげよう、みたいな感じでやっています。

 

たとえばゲームが異常にうまい子供とか、異常にゲームに執着する子供のなかに飛びぬけてる、いわゆる「義務教育」っていう枠のなかでは評価されないけど、才能を持っている子ってすごくいると思うんです。だから、そこまでできている子を単なる「ゲームがうまい子だね」で終わらせるのは、もったいないと思うんですね。

 

日本は、ものすごく小さな皿に乗れる人以外を、切り落としています。結局「そこに乗れた人」の話でしか始まらないから、「そこからこぼれ落ちた異才たち」は、相当よい巡りあわせがない限り、単なる「社会に馴染めない、できない人」になってしまう。
それってものすごく、もったいないことだと思いますよね。

 

それでも、やっぱり学ばなければいけない社会常識、生きていくための術っていうのはあると思います。
だから、例えば北海道で馬に乗りに行ったり、鹿の角を取ってきてそれで食器を作ったり・・というカリキュラムの内容にして、「記憶中心型の教育」ではなく「体験」を通して協調性や数学の計算、理科の科学反応だとかを、学べる場も必要だと思います。
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このような体験学習を通して、この授業の習得項目を履修することで義務教育を修了する道があっても良いのではないでしょうか。

「挑戦的な授業をやる」ということが合っているか間違っているかは別にしても、こういうことを東大の教室でやることに、すごく意味があると思っています。

 

才能がずば抜けていると、いわゆる普通の道を通らなくても目的地にたどり着ける人はいます。でもそれが許されるのは、今のところ日本では東大しかない。

だから東大が「もっと若い層の教育の革命」というか、「新しい教育のかたち」を考えていかなければならないし、それはある意味、宿命でもあると感じています。

『産業医』としてのセカンドスペシャリティ

そんな中で僕がもともとやりたかった、もうひとつの医師免許の使い方があって、それが『産業医』という働き方になります。

 

僕自身、病気よりも「健康」や「人の働き方」というのに興味があったので、思い切ってセカンドのスペシャリティを持つことにしたんです。そのスペシャリティが『産業医』です。

企業ドクターとして、企業の中で働く人の健康やメンタル管理、あとは障害者雇用で雇われている方のケアなどを中心にやっています。現在20社くらいの企業と契約し、産業医、メンタル法務顧問という形で仕事をしています。

障害かどうかは『環境の問題』

僕は「視覚」という一点において、

「完全に社会から孤立してしまっている人たちを、もういちど本来あるべきところに戻す」ということを『Studio Gift Hands』は理念や使命として持っています。

 

でも実は、『産業医』という仕事も本質は全く同じです。例えばうつ病になった社員が1人いた時、「なぜその人がそうなったのか。」「そもそも彼はこの会社の中で何の業務に一番適しているのか。」をアドバイスしてあげることが、本来産業医の業務には必要だからです。

 

要は『社員を適正に配置すること』なんですよね。働いている人たちのメンタル不調のほとんどが業務とのミスマッチか、対人関係のコミニュケーションエラーが原因で起きていると思います。

 

働くことで障害を起こしてしまっている人も、生まれながらに障害を持っている人も、みんな障害があるかないかが問題ではない。
「とにかく一番良いところに行こうよ」っていう話なんですよ。

 

発達障害も、読み書き障害も、自閉症も、みんな同じで、共通して言えることは「障害かどうかは環境に依存する」ということ。
本人の問題ではなく「環境との適合障害」なんです。

コミュニケーションの方法はひとつじゃない

環境が変えらたらそれでいいし、変えられなかったとしても、確実にITは間に入ってくれるコミュニケーションツールになりますよね。例えば自閉症でまったく喋れない子でも、お母さんと音楽を通して会話をしている子だっています。別にコミュニケーションの方法が言葉じゃなくても良いと思うんですよね。
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だけど、音楽の才能はあっても楽器がないってなった時には、開眼のしようがないわけです。でもipadなりでピアノや太鼓のアプリを出してあげて渡したら、お母さんとその子の間に初めて共通言語が1個できるわけですよ。

 

だから、親もやっぱり「喋れるようにすること」にこだわりすぎずに、「何がその子はしたいのか」っていうことに気付くことが、必要ですよね。生まれた時から喋れない子にとって、喋れないこと自体が不便だとは、思っていないわけですから。

それは喋れる側が不便だなと思っているだけで、その子が「意思表示をするかたち」は音楽かもしれないし、絵かもしれないし、立体模型かもしれない。

今までは、そういうものを手軽に子供に提供するツールがなかったんです。じゃあこの子のためにピアノと立体模型を買ってあげましょう、という家だったら良いですけど、なかなか普通の家では無理ですよね。

 

でも今は、無料版のアプリをダウンロードして、見せてあげることができる。そうすると、音楽には反応するけど図形には反応しない、とかがわかります。

多分、そうしたときに、いきなりブレイクスルーが起こるんですよ。つまり、今まで「0」だった情報の行き来が、「もしかしてこの子はこういうことを考えているのかもしれない」という「気づきのきっかけ」につながると思うんですよね。

『環境』を変えるツールとしてのipad

僕らがやっていることは「100点の人を作る」のではなく「0点の人をなくす」ことです。

 

例えば学校の試験で全部の教科すべて0点をとるけど、みんなの中ですごく人気の子だったら、その子はコミュニケーション能力がめちゃくちゃ高いわけです。社会にでたら一番活きるタイプですよね。記憶力悪くて、計算もできないけど、飲み会にはいつも来てるって感じで。

 

結局その子が0点でいるのは、『0点でしか評価できない環境』にいるからですよね。

あとは、様々な障害を持つお子さんのご家族が「なんとかわかりたい」って感じていると思うんですけど、「わかる」っていう言葉の定義が「自分たちと同じになる」って思っている人が、まだまだ多いんですよね。

 

でももし、「そもそも同じじゃない」という視点でいられれば、子どもとのコミュニケーションは「何のカタチだったらできるのか?」という風に考えられるんです。

 

そういった意味でもipadは、一般的に普及しているし、なおかつ安価にいろんなアプリをダウンロードしてチャレンジさせることができます。

親のITリテラシーが必要

親御さんの中には、ITをゲーム機の延長線上だと勘違いしている人も結構多いです。

 

でも『ITリテラシー』って言うんですけど、ちゃんとわかって使わせれば安全だっていうことを、理解してもらいたいです。仮にこれで近視が進もうが「彼らが意思表示できていない」という現状のほうが、よっぽど重要な問題なわけです。

 

ただ、子供はいくらでもやりたがりますし、彼らが自分で「今日はここまでにする」っていうわけないですから(笑)。

 

親には勉強してもらわないといけないですね。どういうカスタマイズした状態のipadを、子供に持たせるかということ。つまり、どうやって使わせたら安全か?っていうのは、子供の問題なんじゃなくて『親の問題』なんです。

 

だから親も変にITに対して食わず嫌いにならずに、とにかく、1個でも彼らの強みになるところを見つけてあげて『一緒に楽しむ』って感覚でやっていければ良いと思います。

 

インタビューアー

伊藤真穂
伊藤真穂
(発達凸凹情報サイト管理人)
PC講師、カラーセラピスト。
次男の自閉症をきっかけに2015年より発達障害に関してのママ向けのセミナーを主催。2015年11月に『発達凸凹情報サイト』をオープンし、オンラインで学べるセミナーや動画配信を行う。

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