この記事は、様々な障害や病気をもつ子どものためのタッチケアインストラクターとして活躍中の藤森史子さんに、タッチケアとは?その効果など詳しくご説明していただきます。

タッチケアとは?

皮膚感覚と脳は、もともと同じ細胞群から派生します。そのため皮膚感覚と脳はとても密接につながって大きく影響しあっています。

専門家の先生方の言葉を借りると「肌は露出した脳である」「皮膚はそれ自体が自立した内臓器官である」「皮膚は思考する臓器」「(皮膚=)外脳」など、皮膚と脳の密接な関係を表す表現が多くあります。

感覚の土台

五感(触覚・嗅覚・味覚・聴覚・視覚)が高度に発達した私たちは、触覚(皮膚感覚)の重要性に気付いていないことが多いのですが、実は皮膚感覚がすべての感覚の土台となっていると言っても過言ではありません。

タッチケアは、皮膚感覚に人が温かく心地よい刺激を与えることで、脳に良い影響を与えるスキンシップの方法です。心地よい皮膚刺激は、脳から自律神経(交感神経と副交感神経のバランスの維持)、内分泌系(ホルモンバランスの調整)、リンパ系(自然治癒力の向上)へ伝わり、さらに呼吸器系、消化器系へと影響を及ぼします。

三つ葉

脳に与える刺激

人が人にふれることによって、脳にプラスの刺激を与え、まるごと全身によい影響を及ぼし、身体的機能の向上や心理的ストレスや不安の軽減につながるのがタッチケアです。

ふれるという行為は相手がいて、双方の了解があって初めて成り立つ相互作用ですので、ふれられている人だけでなく、ふれている人にも同じように大きな影響を与えます。

タッチケアのメリット

タッチケアには様々なメリットがあります。

①身体的利点

・筋緊張と筋弛緩の改善

・呼吸機能の改善

・関節の可動域の改善

・痛みの感覚の緩和

・睡眠の質の向上

・適切なホルモンの生成

・身体感覚が養われる

・触覚の過敏性の緩和

・成長促進

・身体が温かくなる

・血圧や脈拍が安定する  など

②心理的利点

・ストレスの軽減

・不安や恐怖の緩和

・コミュニケーションの改善

・ストレス耐性の強化

・自己と他人との間に健全な境界線が育つ

・自分の身体イメージを受け入れやすくなる。

・相手(タッチケアをしてくれる人)の人に興味がわく

・相手(タッチケアをしてくれる人)に好意を持つ

・攻撃的行動が減る  など

③将来的な利点

・自尊心が育つ

・心理的な居場所(帰ってくる場所)が育つ

・適切な距離感をもってコミュニケーションが取れる

・心理的安定感が増す  など

④親・介護者・保育者への利点

・コミュニケーションの改善

・ストレスや不安の軽減

・育児や介護に自信がつく

・無力感が減る

・子どもを一人の人間として見られるようになる

・子育てが楽になる  など

手と手

どんな時に役に立つのか

タッチケアは、赤ちゃんからご高齢の方まで男女問わず行うことができます。

私が師事したティナ・アレン氏(Liddlekidz国際リドルキッズ協会)は、米国UCLAこども病院をはじめとした多くの医療機関で、医師、看護師、保健師、助産師らと共に小児タッチセラピープログラムを開発し、それを多くの人に届けるために世界中を飛び回っていらっしゃいます。

もともと医療機関内で開発されてきたタッチケアは、様々な分野で活かされています。

・様々な病気や障がいをもつ人や、医療ケアを必要とする人のために(NICU、小児がん、自閉症スペクトラム、トラウマ、脳性麻痺、肢体不自由など)

・子育ての場面

・認知症のケアや介護、緩和ケア

災害時のタッチケア

災害時にタッチケアを行うことによってこんな効果も期待できます。

・恐怖や不安をやわらげる

・PTSDを予防する

・エコノミー症候群を予防する

・身体のこわばりを緩和する

など、様々な効果が期待できます。

どんなことをするの?

タッチケアに、力や難しい技術はほとんど要りません。

タッチケアの基本は次の3つです。

①相手からふれることの許可を得る。

~「(身体の部位)にさわってもいいですか?」「マッサージしてもいいですか?」「タッチしてもいいですか?」

表現は自由です。相手に安心感を与え、伝わる表現で聞きます。相手との信頼関係が大切です。

②相手の身体に手を置く。

~自分の手の重さをあずけるくらいの圧で。軽すぎず押しすぎず。

③手を相手の身体に密着させてゆっくりとさする。

~リラックスには、1秒間に5センチ程度の速さがベスト。

手、腕、足、脚、背中、お腹、顏など、水着で隠れる以外の場所はほとんど全身にできます。

数種類のストロークを使い分けるとさらに便利です。

長くゆっくりと身体の端へ向かうストロークは、副交感神経の働きを高めたり、筋肉の緊張を緩めたりします。

短く速く身体の中心へ向かうストロークは、交感神経の働きを高めたり、筋肉にハリをもたせたりします。

身体の中心線を横切るようなストロークは、右脳と左脳をつないでいる橋(脳梁)へのよい刺激になって、情報の受け渡しをスムーズに促します。情報の受け渡しがスムーズにできるということは、自己調整力が増すことにつながります。

指を使うタッチは、手の平よりも少し強めの圧を与え、筋肉への刺激にもなります。

手と手

以上が、タッチケアの基本となります。

この記事を書いたひと

藤森史子

藤森史子さん

Liddlekidz国際リドルキッズ協会認定タッチケアセラピスト(小児上級・自閉症・NICU・小児がん)/ アロマボディセラピスト

様々な障害や病気をもつ子どものためのタッチケアインストラクターとして、緩和ケアセンターでアロマケアを行うセラピストとして、「人が人にふれる」ことの大切さをたくさんの方に知ってもらうための活動中。
タッチケア教室では、自閉症スペクトラムに特徴的な脳神経のしくみと行動の関係や、タッチ(皮膚感覚)と脳や神経系との密接な関係をわかりやすくお伝えし、いつでもどこでも気軽に続けられるタッチをお伝えしています。

※参考文献

・小児タッチセラピー指導者養成講座テキスト~Liddlekidz国際リドルキッズ協会ティナ・アレン
・子供の「脳」は肌にある~山口創
・手の治癒力~山口創
・皮膚感覚の不思議~山口創
・賢い皮膚~傳田光洋
・皮膚感覚と人間の心~傳田光洋
・心の成長と脳科学~日経サイエンス編集部編
・オキシトシン~システィン・ウヴネース・モべリ
・不安・恐怖とオキシトシン~尾仲達史(アンチエンジング医学―日本抗加齢医学雑誌Vol.11 No.1)
・ストレス・摂食・社会行動の相互作用:オキシトシンの働き~尾仲達史(Vol.54 No.7 心身医)

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