医療法人社団 和風会ライフサイエンス研究室長、(株)アイム顧問(アインシュタイン放課後)の加藤みのるさん。
もともとはどういったことをされていたのですか?
僕はもともとフォ―カル・ジスト二ア(※)や、腱鞘炎の症状で悩むピアニストなどの音楽家に対する「調整」を行うウィリアム・アダムという先生のお手伝いをするような形で、約8年クリニシャンとしてのレッスンを受けていました。それと同時に、「行動学」も勉強していました。
※フォーカルジスト二ア…楽器演奏の際に意図せず手指の筋肉に力が入って指を動かすことが難しくなったり、動かそうと思っていない指が勝手に動いてしまうことなどの症状がでる病気。
音楽家に対する調整とは?
具体的には、「今聞いた音と同じように演奏する」、ということをやってもらっていました。理論的に考える状況にしてしまうと、言葉で言い表せる範囲の中でしか精神的な部分が反応できなくなってしまうからです。
ウィリアム・アダムは、「赤ん坊が泣く声に近い音を出すこと」が音楽のベースにある、とよく言っていました。赤ん坊は1日中泣いていたとしても声が枯れませんよね。ところが大人になると応援するにしても何にしても「感情や思考」が入ってくることで身体の使い方が変わってしまい、喉が枯れたり、声が出なくなったりしてしまう。
つまり、他のものの「環境」を変えるために体の中から本能的に音を出す。それが一番理想的な形で、そのエネルギーをうまく使っていく、という考え方です。この考え方を基本に音楽家に対しても調整を行っていました。
現在の仕事を始めたのは?
こういったやり方を、音楽家以外の人にも還元できるようにしていかないともったいない、という考えが出てきたからです。現在は医療法人の出した学校で臨床をとっていて、基本的に自閉症のお子さんや片麻痺のあるお子さんなど、発達に障害のある子供のサポートをしています。そのサポートをするときに、音を使ったほうがお子さんの行動をうまく促せることが多いのです。
その子自身を知るために
僕が一番専門でやっていたのは「発語のきっかけを作っていく」というところです。特に聴覚優位な自閉症の子の場合は、音楽家と同じ脳の回路を使っている場合が多いので、彼らが発する「声の音」から出てくるものをきちんと聞き取ってあげることが必要です。その子自身を理解していくために。言い方を変えるなら、「その人がいる場所を探してあげる」みたいなものですね。
臨床をしているうちにわかってくるのは、発している「声の音」のなかにきちんと意味があるということです。音程も小数点2桁くらいまでぴったり同じピッチで自分の感情を出す子もいます。あとは、伝えたいことがある場合は同じ音域で出しているとかもありますし。特に自閉傾向のあるお子さんは、言語的な部分の負荷が脳にかかっていない分、環境から読み取る情報が圧倒的に多いです。
そのため、お子さんの状況を知るためのアセスメントはビデオで撮って見ることが多いですね。彼らのほうが圧倒的に進んでいて、僕らでは一瞬のなかで見逃していることがたくさんあるので、それは映像を見直さないとシグナルを見落としていることがたくさんあります。それを拾う作業を必ずやっていきながら、声をかけるタイミングや、一緒につながっていくためにはどうしていけば良いか、というのを考えていきます。
実際にはどのようなことをしていくのですか?
まず、僕らが普通に暮らしている日常自体が、彼らにとって幸せかどうかはわかりません。だから、こちらが「こうしたほうが良いから○○させたい」と思っていることをするのではなくて、本人自体が心地よく暮らせることのほうを大切にしなければいけません。これが大前提になります。
「この人といることで希望が持てる」という時間を増やして、世界とつながるようになっていくことを彼らと一緒に考えていくのが僕の仕事だと思っています。子供同士で遊んでいる延長みたいに考えてもらえるとわかりやすいですね。だからクリエイティヴであり続けないと彼らとのコミュニケーションは取れません。
「特別なことをする」というよりも、今同じ場所にある人間がいて「お互い心地良い」というところを見つけていくのが一番はじめのスタートです。そこから「じゃあこうなっていくと、どうなるかな」と、うまく見出して、あとは逆に裏切ってあげたり。そういうアプローチをかけていきながら、コミュニケーションをとるきっかけを出していきます。
「感情が出ると気持ち良い」ということを学習さえすれば、そこから変わっていくことができるので。
ベースはその子がおもしろいと思っていることを観察することです。それにかかる時間はその子によっても違うし、あとは僕にも慣れてもらわないとダメですよね。だから、すぐに結果を出すというのではなく、時間はある程度かかると思います。
「コミュニケーションをとる」きっかけ
僕が実際に臨床をやっていたときに、重度な自閉傾向のあるお子さんをみる機会がありましたが、彼とはじめにコンタクトがとれたのも、自分の中にある「心地良い喜びの感覚」が外にもあることを彼自身が知った瞬間です。太鼓の音でアプローチをかけていったのですが、「あれ、なんで心地良いものが外にもあるのだろう」と驚いた様子でした。
そしてやり方としては、その瞬間にあえてその音を止めるのがポイントです。「もう少し欲しい」と欲することがないと人間の脳は学習していかない。あとは自分が望んでいるものに対して、「それをしてほしい」という動作をする、その結果がきちんと返ってくると、人間は「また繰り返したい」と思うんです。それがうまくいかない場合には動作を変える、というこれが人間の頭のなかのシンプルな考え方のひとつです。これをうまく使うと声を出すことにもつながるし、色々なことにどんどん広げられると思います。
脳は「快」を求めるもの。そのきっかけさえあれば、「コミュニケーションをとる」というところにつないでいくことができます。必要性をデザインしていくなかで、僕はやっぱり「その人に合ったもの」を見つけていかなくてはいけないと思っています。その作業を入れたほうが、一緒に希望を作っていくことができますから。
家で意識して行ったほうが良いことは?
お子さんが受け取りやすい、「自分が話すときの声の音」というのを意識して、いつも同じかたちで提示してあげるのが良いと思います。気が付くと「声の音」は、そのときに「思っている世界」を表している場合があります。私たちも自分の世界を持っていますからね。
言葉を共有しているのではなくて、言葉の裏側にある「自分の持っている世界」を共有するということ。そうすると彼の世界と自分の世界のつながる瞬間が捉えられるようになってくると思います。そこが重要なんです。だから、話している言葉以上に「一緒に共感している」、「一緒にいる」ということが結果として安心につながって、お子さんが成長していく「何か」を見つけるきっかけになっていくのではないでしょうか。
外側に意識を向けたところから始めて言葉が動き出します。だからぼくは、言葉を「窓」、あるいは「世界とつながる扉」だと思っています。
世界との接点は「今この瞬間だ」ということを感覚的に捉えられたときに、発動します。パスワードみたいなものがあって、自分の「快」だと思えるものを脳が見つけられるかどうかということに近いですね。だから、その瞬間を見逃さないこと。「その子の目線で世界を見よう」とすることが大切だと思います。
編集後記
私も実際”音の処方”をしていただきました。
そこはストレスのない世界。世の中がこんなにも美しく輝いているものだったとは・・・。様々な環境に敏感すぐてストレスフルな発達障害の子どもたちが子どもたちに、この世界を体験させてあげたいと、心から思いました。
※自閉症のお子様への処方はまた違ったスタイルとなります。詳細はお問合せください。
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