こんにちは!
おうち療育アドバイザーの浜田悦子です。
今回は動作法について、大阪やカンボジアで活動されている、臨床発達心理士・臨床動作学講師・臨床動作士である、中野弘治先生にお話しをお聞きしてきました。
「からだ学習」 ~からだの動きを通してゆっくりと丁寧に優しく~
動作法の歴史
動作法という技法があります。
こちらは、1960年代に九州大学の名誉教授である成瀬悟策先生が提唱された技法です。
心理療法の多くは催眠療法からはじまっていると言われる程で、成瀬先生は元々は催眠療法の権威です。
その成瀬先生のチームが、ある時脳性麻痺の方々に催眠療法を試してみたところ、それまで緊張していた腕が伸びてきたそうです。
脳性麻痺への動作法の適用
それまで脳性麻痺の方々は、残存機能を生かしましょうということで、
例えば 両手がギューっと固くなっていると使えませんよね。
そうすると、次は口でボールペンを噛んで字を書いたり、足の指にフォークを挟んで食事をする、という残存機能の有効利用を考えたのです。
あるいは、手には、腱や筋肉を切ってオペをするという対処をされていました。
ところが、催眠療法を適用すると腕が伸びた、という訳です。
これは、からだや筋、骨格の問題ではなく、ご本人のからだの使い方や、からだへの努力の仕方によるものであろうと考えました。
例えば、目の前のものを持ちたいと思うけれど、手にチカラが入って使えない、伸ばそうと思っても、ギューっとチカラが入って伸ばせない、これは誤学習をしていることになります。
目の前のものを、持ちたいけれど、持てないという誤学習ですね。
これは、意識的か、無意識的かは別として、誤学習をしているので、正して学習していくことが必要です。
自分からうまく動かせるような動きの学習に変えていきましょうよ、というのが動作訓練(当時は訓練と呼ばれていた)として、1960年代に障害のある方々、特に脳性麻痺の方々を対象にされました。
九州のやすらぎ高原というところに研究所を立てて(やすらぎ荘)、そこで今も脳性麻痺の訓練の研究を続けています。
脳性麻痺への動作法の適用は、そういう流れになっています。
うつ病の動作法の適用
もう一点は、1970年代からだと思いますが、精神科の病院などで、ノイローゼや鬱病の方々にも動作法を適用しました。
そうすると、随分と表情や様子の変化がみられたのです。
それがいわゆる、臨床動作法という、心理臨床の方の動作法ということになります。
発達障害の動作法
動作法には、二つの学会があります。
日本リハビリテーション心理学会、これは脳性麻痺や障害のある子どもたち、またその親子を対象にした学術大会など。
もうひとつは、臨床動作学会という、心理臨床の方々を中心とした学術大会などの学会です。
発達障害や自閉症であれば、前者の日本リハビリテーション心理学会の対象かなと思います。
僕自身は、元々専門が知的障害児(者)への療育ですが、どちらの学会にも所属しています。
自閉症や発達障害、ダウン症の子たちへの支援をしています。
問題行動というのは、実は本人たちはあまり問題と思って行動していないですよね。
周りの大人が、これは問題だと感じていることが問題行動になっているところがありますよね。
ただ、そこの行動自体が変化すると、ご本人がとても生きやすく、生活しやすくなると思います。
問題行動に至るには、何らかのその子たちの物事の受け止め方の誤差であったり、あるいはその物事への関わり方の躊躇や不安が非常に強いのではないか?と思います。
動作法とは?
動作法というのは、からだの動きを媒介にした心理療法です。
なぜ、からだに対して直接アプローチして子どもが変わるのか?
これだけみると(下図参照)押さえつけているように見えてしまいますが、実はこれは、本人が動かしています。
ジャイアンのび太症候群
ドラえもんを思い出してください。
ジャイアンのび太症候群という、あれに代表されるように、みんなADHDや何らかの発達の問題を持っています。
のび太くんは、いじめられる。
弱くて、すぐ誰かに頼ってしまう生活の仕方をしています。
ジャイアンは、家では弱いけれど外では強くなって他の子をいじめるという生活パターンを持っている。
次にこのシーンを見て下さい。
(下図参照)
肩を上げたり下げたりする訓練です。
この、肩を上げたり下げたりする時に、もしこの子がジャイアンであれば、どんな肩の上げ方をするのかが想像がつくと思います。
のび太君なら、「ぼくできないよ~」と言いながら上げるであろうと想像がつく訳です。
それは、日常生活の物事や人への関わり方が、こういう動作の中にも表れますよ、ということなのです。
ジャイアンでしたら、ギューっとチカラ強くやって、すぐにやめちゃう。
そうすると、ゆっくりと、とか、ていねいに、最後までやり通す、という動作の仕方はなかなか苦手で難しいですね。
そのようなことを、具体的な動作を通して練習していきます。
のび太くんであれば、ちょっと負荷をかけられていると、「ぼくできない」となってしまいます。
こんな時は、「もうちょっと頑張ってごらん」と、もう少し頑張らせる。
同じ訓練ですけれども、その子の特性に応じたやり方を提案していく、というところが動作法の特徴です。
マンツーマンで実践する技法ですので、対象になるお子さんの特性に合わせて、こちら側がアプローチなり課題設定をしていきます。
そうすることで、今までぎゅっとチカラを入れていたことが、丁寧にできるようになります。
そうすると、周りに対しても丁寧さが持てるようになるのです。
障害特性と動作法
発達障害の方々って、自分のやりたいことはパッとできますが、人から言われたことは難しいですよね。
運動会の徒競走がそうで、興味があるものがあると ずっとそこまでは走れるのですが、位置について、ヨーイドン!だと、たらたらと走ってしまう。
その当りの、人の要請がなかなか受け入れられませんね。
そういうことを含めて、自分の日常の生活の有り様、
もっと言えば、活動の仕方をよりよい活動の仕方に変えていきましょう、からだの動きを使ってやりましょう、というのが動作法の大枠です。
その子の特性を捉える時に、過敏というお話しがありました。
感覚過敏にも色々あって、最近僕が興味を持っているのが ‟見る“ ということです。
例えば、感覚過敏の方々の中には、白っぽい素材が光ってみえます。
物事を見るという時に、白いものがピカっと光って見えてしまう時は、どうしても身構えてしまいます。それに対する、不安な対応になってしまう。
そうすると、どうしても姿勢が崩れてしまうのですね。
その刺激に対して受け止めがうまくできないので、姿勢が崩れてしまう。
多分、何とか学校に行かなきゃと、行っているお子さんは頑張っています。
頑張っているという言葉は、抽象的な言葉ですので、もう少し具体的に言いますと、どこかに身構えるようなチカラを入れている、とかですね。
学校ではチカラを抜いて、ふっと椅子にカラダをあずけることが難しいことがあるかもしれません。
学校でしたら、この場所だったらリラックスできる、というような場所探しなどがうまくできるようになると、疲れも少なくなるかもしれません。
そういう意味では、自分のチカラのコントロールできることが重要ですね。
緊張のコントロールができてくる、あるいは少しでも自分の中で方法論として知っている、もっというと、誰かサポートしてくれる、それはお母さんでもいいんです。
お母さんがテクニカルな方法を持ち得ていて、家に帰った時にお母さんに「今日疲れたからこんなんしてよ」とSOSサインとして出せたら、ご本人は生活しやすくなりますよね。
そういう方法としても、動作法を使っていることが多いです。
姿勢を保つために必要なこと
発達障害の子どもたちは、割とカラダがふにゃふにゃしています。
姿勢が悪かったり、猫背であるとか、あるいは学校の椅子に座った時に足を投げ出して後ろにドーンともたれてしまう、という姿勢になりがちですね。
逆にいうと、良いか悪いかは別として、真っすぐの姿勢のままでいなさい、というのは、もちろん難しい。僕らでも難しいことですから。
ここぞという時に、興味を持った時に姿勢を安定させることができると、その後の結果が変わってくるのです。
姿勢を大切にする
姿勢と言っても、お人形さんのように座りっぱなしではなく、座った状態から自由に動かせる。
それが動作という、動作法の基本になります。
姿勢をよくするというのは、例えばお行儀とか、見た目とか。
そうするとね、目的はまっすぐすること、なんですね。
重要なことは、姿勢をまっすぐにすることの方が、よく聞こえる・よく見えるなどという合理的であり、メリットがあることが重要なのです。
例えば、見るチカラもそうですね。
何か遠くを見る時に、あれはなんやろう?と(身を乗り出して)見ますよね?
その時の気持ちのアクティブさが姿勢に現れる。
姿勢が準備状態にあると、アクティブな興味や魅かれるものに対して関わりやすくなります。
その機会が増えるということになります。
ですから、姿勢を自分でコントロールできるというのは、見るチカラが備わったり、聞くチカラが備わったり、しいては集中するチカラが備わるということにつながっていくということになります。
そういう意味で動作法は、これらのチカラがついてくるというところの前に、姿勢をきちんと作っていきましょう、ということになります。
できることに、より‟できたね“と気付くということ〜動作法〜 へ続く