横浜市にある多機能型事業所(就労移行支援と就労継続支援B型)であるショコラボさんのインタビュー
ショコラボの契機 事実への奮起と改善への取り組み
ショコラボは全国ではじめての福祉のチョコレート工房です。
作ったきっかけは、障害者の働く場があまりに少ないということと、驚くべき低い水準の工賃だということを知ったこと。
何とか働く場を作り、工賃をアップしたいなぁという気持ちで作りました。
なぜそもそもそういう事実を知ったかというと、わたしの息子が障害を持って生まれて。
それが契機でした。
彼が小学校に上がる時に、その事実を知らされまして愕然とし、驚愕し、怒りを覚え・・・色んな気持ちが混ざり合いました。
月給三千円くらいだと聞いたのですが、何とかそれを打開して働く場所を作らないと親が死んだ時、彼らが生きていけないじゃないか?と、何とも言えない気持ちの中で脱サラしました。
構想に10年かかりましたが、2012年11月に、このショコラボをオープンしました。
10年の葛藤
その歳月で何を僕がしていたのか?というと、一つは脱サラして大きな資本があった訳ではなかったので、まずは開業資金を備蓄しないといけませんでした。
もう一つは、具体的に何をやるのか?と深謀遠慮していました。
実は、後半4年の2008年から2012年までは、どのビジネスで障害者が働く場所を作るのか?ということを試行錯誤していました。
最初はもんじゃ焼き屋さん、ラーメン屋さんや、蕎麦屋さんや、カレー屋さんなど色々悩みましたが、どうしても決められませんでした。
わたしは開業資金の備蓄のために昼間は全力投球で仕事をしていましたので、家内に色んな業種を丁稚奉公してもらいながら検討していました。
ですが、どのビジネスもそうですが、良い面も大変な面もある。
今となってみれば当たり前ですが、どんな仕事にも一長一短があります。なかなか逡巡して決められませんでした。
実は最後、カレー屋さんで悩んでいましたが、なかなか踏ん切りがつかない時に、友人がある方を紹介してくれました。
その方は、18歳で社会に出られて、30年間で13の異業種のビジネスを立ち上げられて、3つの上場に関与した、すごい方でした。
その方に自分のやりたいことや考えていることをお話していましたら、
「伊藤さんご夫婦がやりたいことは、雇用の創出と工賃アップですよね?だとすると、何でもいいんですよね?」
「はい、僕はなんでもいいんです。」
「だったら僕は、第三次産業は選ばないです。第二次産業を選択すると思います。第三次産業ですと、権利金、内装や人件費などあっという間にお金がなくなっちゃいますよ」
と。
うちの家内が現場で回ってきた実体験をもとに考えても、一店舗当たりで障がい者が働けるのはせいぜい2、3人。
あとは健常者のスタッフになってしまう。
その方がおっしゃるのは、
「格好もつけずに、見てくれも関係なく、第二次産業である工場をやります。工場であれば、何人かもっと人数は雇えますし、格好なんかつけなくてもいいわけなので。第二次産業を選びますよ」と言われました。
なるほど、ものごとって、産業構造で考えるということもあるんだと、ものすごいインパク
トがありました。
さらに、ワタミの渡邉美樹さん(当時社長)の講演会を聞く機会に恵まれました。
「居酒屋をはじめた理由というのは NYのパブに行ったときに皮膚の色も関係なく、貧富の差も関係なく音楽の時にはみんな笑顔で楽しそうで、酒を飲んでいる時は国籍やお金持ちかどうかなんて関係ない。何て居酒屋って素晴らしいんだ!」と、感動したのがきっかけだと話されていました。
僕も自叙伝を読んで知っていましたが、さらに渡邉さんは
「ワタミは大成功したけれど、失敗したこともいっぱいあります。その内の二つがお好み屋さん、もう一つはデパ地下のシニア向け高級総菜コーナー。両方とも頭で考えて、これは行けると思ってマーケティングしていったが、見事に失敗した。頭で考えたビジネスはことごとく失敗した。心で感じたビジネスはことごとく成功した」と、おっしゃっていました。
なるほど、と思いました。
僕は一時期アナリストをしていました。
その時の癖で、色んな事業を分析していました。
当たり前ですが、どのビジネスも一長一短が必ずあるので、どれも良さそうに見えて、怖そうに見える訳です。
その時、頭で考えているから決められないんだ、心で感じるビジネスをやればいいんだと。
ですが、第二次産業で、かつ、心で感じたビジネスといっても、自分はもともと銀行員ですし、格付け機関や不動産会社を経営していたことの、何がつながるのか?がわかりませんでした。
そんな時、たまたま家族で洒落た街を散歩していたらチョコレート屋さんがありました。
その時、家内の
「パパはチョコレートが好きだから、チョコレート屋さんでいいんじゃない?」の一言に
「そうか!工場で好きなことをやればいいんだ!」とすべてが合致しました。
<実際に工房で作られているチョコレートたち>
かわいいパンダの顔は一つ一つ手作業で描かれていきます。
好きこそものの上手なれ じゃないですけど、好きじゃないとピンチの時に撤退したいと考えると思う。
好きなら、周りからみてアレコレ言われても、やり続けていて、やり続けているうちに、ある一定の壁を破って突き抜けられる。
松下幸之助さんではないけれど「成功する秘訣は成功するまでやり続けること」。
そうじゃないと、早期撤退という選択肢でさえ、経営手法としては有効な手段なので。
つまり、経営資源を必要以上にロストさせないという観点からは、厳しい壁にぶち当たったときは、早期撤退が有効な手段になります。
一方で、早期撤退ということは失敗を確定させるということですから、その瞬間に、失敗が顕在化してしまう。
僕の場合は、障がい者の働く場を作って、事業を継続することが大切なので、それで失敗で確定したら困る。
永続して会社として続いてくれないといけない。失敗は許されないくらいの気持ちで考えていました。
そんな10年間でした。
チョコレートで行くと決めてからはたった半年後で、ここを作りました。
決めたのが2012年の2月、その年の9月には会社を作ってました。
チョコレート作りの他に、梱包(アソート)・発送(デリバリー)の業務もあります
メンバーさんと接する時に心掛けていること
ざっくばらんに言いますと、すごく気を付けていることは無いんです。
自然体で接するというのが、正直なところ。
ただ、職員の方々にお願いしていることは、僕自身が人生を生きる中で心掛けていることですが、どんなことも肯定的に解釈するということをお願いしています。
例えば、ある事象が起きても、見方によって違う。
パッと見たときに、なんでだろう?いけませんよ!ということが起きたとしても、ネガティブに捉えるのではなくて、ポジティブに捉える。
具体例ですと、知的障がいのために数がカウントできない。
その方に、「なんで数を数えられないんだ!」と言ってもしようがない。
数を数えなくても作業ができるような工程を組めばいいわけで。
数を数えられなくても、目的を達成できる方法論をみんなで相談して決めたり・・・
そういうことですね。
それは、心掛けていますし、そもそも生き方そのものなので、そんなにチカラが入っている訳ではない。
その他は、特になく、愛情を持って、叱る時は叱り、褒めるときは褒めるというように接しています。
当日は視覚的な指示があり、口頭で指示する方はいませんでした。
とても静かで穏やかな空気が流れていました
ショコラボを立ち上げて心に残っていること
いっぱいあります。
いっぱいありすぎて、どれを選んでいいのか分かりませんが、Thank you Boxというものがあります。
これは、人間の持つ「承認欲求」ですね。
「ありがとう」を、同僚や、職員さんも含めて、職員もメンバーさんに対しても、なんか素敵だなぁ、ありがとうって言いたいな~って思う場面があったらそれを書きます。
一番投票数の多い方を今月の一番ということで表彰しています。
その中に、
“ショコラボのお仕事を作ってくれてありがとうございます”
というメッセージが昨年末に入っていまして、それはものすごくうれしいことでした。
彼ら、彼女らは、どうしてもヘルパーさんなどを含めて「ありがとう」を言いがちな人生。
そうではなくて、「ありがとう」を言ってもらう立場に立たせてあげたいと、思いついたことです。
これからの夢
少なくとも、ナンバーワンではなく、オンリーワンを目指したいと思っています。
ショコラボ自体はスイーツ作りを行っていますが、ザ・モノラボという名前でパラシュートのコードでアクセサリーも作っています。(いわゆる、パラコード・アクセサリー)非常に頑丈で耐久性があるものです。
このようなモノ作りを通して働く場を作り、工賃を上げられたらいいなぁと考えています。
https://monolabo-chocolabo.com/
※画像はモノラボHPからお借りしました
ショコラボということで言えば、ショコラボらしさを大切にした商品を作っていくこと。
その商品を作ることで、結果何を伝えたいか?というと、我々がやりたいと思っているのは、
スイーツという物質を通して夢と笑顔を提供していくこと。
彼らでもやっていけるんだよということを、親御さんにも本人にも夢を持ってもらいたいし、地域の方々にも笑顔を、お客様にも笑顔を提供していきたい。
ましてや、作った彼ら自信も笑顔を持てるようにしていきたい。
そういう、仕組作りをしていきたい。
あくまでも、スイーツ作りやアクセサリーは物質であって、本来的目指していることは、彼らが色んな方々とコラボレーションすることでクリエイティング・シェアド・バリュー(CSV:Creating Shared Value、新しい共通価値の創造)ができることを証明していきたいと思っています。
ママたちへのメッセージ
子どもに障害があるとわかると、複雑な気持ちになりますよね。
きっと読者の方々もそんな単純な言葉では説明できないような気持でしょうから。
メッセージも、単純なメッセージでは伝わらないと思っています。
ただ一つ言えることは、「事実は一つ、解釈は無数」だということ。
お母さまたち、お父さまたち、おじいちゃま、おばあちゃま、兄弟、姉妹。
悲観しても嘆いても、事実は変わらないということ。
逆に言えば、事実は一つだけど、解釈は無数だということです。
だから、憂うることもできるし、なにクソ!と前向きに思うこともできる。
ゆっくりとした時間の流れの中でしか、自分の中で取り入れて咀嚼できないという、時間だけがなせる業もあるでしょうし、段々年齢とともに事実を受け入れざるを得なくなってくることもあるでしょう。
もっとリアリズムで言えば、こうあってほしい・・・からズレていくことを段々実感してくることもあるでしょうし。
それも含め、事実は一つなのです。でも、その事実に対する解釈は無数にある。
僕は、【運命的所与を肯定的に解釈する】。これに尽きると思っています。
そして、いかに自分が人生を謳歌するか?に尽きると思います。
焦らないということも重要だと思います。
それと、なるようになる。ということも。
もっと言えば、悩んでいるお母さんたちも、それでいいんです。
人間なんだもん。
お釈迦様や神様じゃないんですから。
僕は、育てたことがないからわからないのですが、健常者のママも同じだと思いますよ。
色んな悩みは尽きないと思います。
不幸な方は、過去か未来に惑わされているけれど、生き生きしている方は、今に集中して生きています。
例えば、必死に稽古している劇団員やアイススケートの選手。
過去や未来に捕らわれずに、今この瞬間に全力を尽くしている。
アイススケートの選手は失敗しても、それを引きずることなく、連続する演技に集中する。
つまり、「いまこの瞬間」にフォーカスして一連の演技を成し遂げるわけです。決して、過去を引きずり、未来を憂いすぎることはなく、いまに集中して演技を楽しむ。
過去や将来を必要以上に憂いている方は、見ていてワクワクしない。
見ていて辛そうだなぁと思う方は、復習ばかりか、予習ばかりしているんですね。
“今”にこころがない。
だから悩む時間ばかりが通り越しちゃって、この一年間わたし一体何をしてたのかしら?となってしまう。
だって、今を一生懸命生きていないじゃない。
僕が好きな言葉は、
「他人と過去は変えられない。変えられるのは、自分と未来だけ」
心配であるがゆえに、せっかく生まれた子どもと、楽しい人生を暮らすということを忘れないように心がけているんです。
だから、適度に力を抜いた「いい加減」、いいかげんに生きるのがいいんです。
と、僕自身に言い聞かせています^^
<ショコラボの商品が買えるお店>
メンバーさんのお母さまが描いてくださったのだそう。
ショコラボFacebook
https://www.facebook.com/chocolabojp/
メディア掲載 :おとなの週末
伊藤会長の著書 :夢みるチョコレート工房
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インタビューアー
<おうち療育アドバイザー浜田悦子>
『元発達支援センター指導員』で『自閉症スペクトラムの息子の母』という2つの経験を生かし、同じ悩みを持つお母様方に、家庭でできる療育アドバイスや、カウンセリングを行っている。
日常生活や社会性の悩みへの対処法を、具体的に指導。
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